歴史ある吉備の国「岡山」、その県内でも有数の桃産地である倉敷市玉島で桃づくりをしています。
元はサラリーマンをしていましたが、あるとき偶然食べた桃があまりにも美味しく、雷に打たれたような衝撃とともにほっぺたが落ちてしまったことがあります。それ以降、桃の魅力と芸術性に惚れ込んでしまい、気がついたら耕作放棄地を開墾しながら桃を自分で育てていました。ゼロから独学で勉強を重ね令和2年に新規就農、37歳で農業の世界へ飛び込みました。現在は約1ヘクタール程の規模で20品種以上の桃をつくっています。桃の他にもミカン、レモン、ライムなどの柑橘類、ビワ、柿、イチジク、キウイ、ザクロなどの果樹を栽培しています。
~樹上熟成へのこだわり~
くらねら果樹園では「超弱剪定」という栽培技術を取り入れています。最近では「岡山自然流」とも呼ばれており、むやみに強い剪定は行わず主枝の先端部分は強く大きく高く仕立てながら、樹本来の特性や生理を上手く利用していく栽培方法です。生産能力が高い健康的な樹をつくりながら、高品質で多収量な果実生産を安定的に行える技術として今注目されつつあります。そして何よりも当園がこだわっているのが「樹上熟成」。樹上で可能な限り熟度を上げ、一番ベストなタイミングで収穫することを心がけています。果実へ糖度と味がしっかりと入るまで待ってから収穫された桃は、まるで樹の上で熟成されたかのような深い味わいとなります。この樹上熟成を成すためには、収穫期前の狙ったタイミングで樹勢が落ちついた状態を意図的につくりだすことが絶対条件となり、長期にわたって樹をコントロールする技術介入が必要になってきます。
~桃に学ぶダイジなこと~
桃の生理をきちんと理解した上で剪定、摘蕾、摘花、摘芯、摘果など一年間通して総合的に行うことで、桃の樹が持つエネルギーを最大限に引き出して利用することが可能になります。そして、そのエネルギーの行き先が栄養成長から途中でシフトし果実へと向きを変えたとき、桃の実に奇跡が起こるのです。全ての舞台と主役は桃の樹であり、人間はただお手伝いをしているだけ。美味しい桃ができるのは、桃の樹がパフォーマンスを発揮してくれた賜物なのです。この桃とタッグを組んだ以心伝心をやってのけるためには、理屈にとらわれない感性と自然から学ぶ力がとても大事になってきます。目には見えない世界ですが、微生物と土壌環境への理解は最も重要でしょう。くらねら果樹園では、全ての畑において、生き物の共存と循環を創るために草生栽培をしながら果樹を育てていますが、草生栽培は単に生命のゆりかごとなる生態系をはぐくんでくれるだけではありません。生えてくる草の種類や状態、そこに集まる虫や動物を注意深く観察すれば、土壌や桃の健康状態まで分かるバロメーターの役割も担ってくれます。草や虫、鳥、ミミズ、モグラから聞こえてくる声に耳を澄ませ、心で感じようとすれば、自然の摂理はおのずと感性で理解できます。宇宙の真理のもとに、自然はものすごい合理性を持っていて、それを桃を通じて学びます。自然が私の先生であり、桃づくりの師匠なのです。
~目的のためには手間暇は惜しまない~
桃は熟すと極めて痛みが出やすく、熟度を求めすぎると商品にならなくなり、天敵のヒヨドリや夜蛾の被害に合う確率もグンとあがってしまいます。圧倒的リスク増加と途方もない収穫の手間が増えてしまう樹上熟成なのですが、小規模かつ農家直送であるからこそ繰り出せる必殺技でもあるわけです。むやみに栽培面積を拡大すれば作業に追われ「人頼み、人任せ」の部分が必ず増大していきます。そうなると丁寧な管理からはかえって遠のき、品質の低下さえ招いてしまいかねません。桃の樹は一本一本、性格や癖が異なるので、それぞれの樹勢、特性に応じて数年先まで見据えた個別管理が必要になってきます。そのために当園では、あえて栽培面積を小規模にとどめ、一本の樹により時間を使い、心を傾け、全ての樹に自分の想いが行き届く範囲の中での桃づくりに尽力しています。
くらねら果樹園では桃が一番甘くおいしくなるギリギリの状態まで樹にならせる「樹上熟成」と、「今!」を見極めた収穫にこだわっています。せっかくご縁を頂いたお客様には一番美味しい桃を食べていただきたい。ほっぺたを落とすほど喜んでもらいたい。この一心で「樹上熟成」にこだわり、これからも桃の樹と向き合ってまいります。
LOVE&PEACH
くらねら果樹園
園主 田邉 亮
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